都政新報 「板橋区ホタル館、委託業者を変更」年度半ば館長には移動命令

先週2月7日、都政新報に掲載された記事について考察したいと思う。
 https://www.toseishimpo.co.jp/modules/news_detail/index.php?id=2587

— 記事要約 —                                                                                                                                                        

板橋区が廃止する方針の「ホタル生態環境館」の委託事業者を従来の「むし企画」を受託業務を履行出来ないとして、自然・環境教育で実績を持つ民間会社に変更していた。区担当者(館長)に所属環境課内での移動を発令。同館内で業務サポートをしていたボランティアも排除。区は1月27日ホタルの生態数を調べるため、ホタルを飼育している「せせらぎ」で成虫やカワニナの数を調べた。区の保持する特許技術の提供件数、土の抗菌を目的に飼育しているクロマルハナバチについても調べている、という。これに対し、同館関係者は業務を適正に行っている中で、契約不履行とこの調査に批判。区は15年度までに廃止する方針を固めているが、区議会から技術の継承を促す声が出ている。

 20130710_せせらぎ-column

 この板橋区ホタル生態環境館は、都内、いや、国内有数のホタルが生息するせせらぎ。同区議員の発案により、板橋区職員  阿部宣男氏によって研究開発され、同区は平成19年1月12日に『ホタル累代飼育システム及び方法』の特許第3902476号を取得している。

 

 同館には、全国から教えを請う人々が数多く訪れ、後を立たない。後に学位を取得されて、名実共にホタル博士と称される阿部氏はホタルを愛する人々にとって最後の砦のような存在だ。
 私自身も全国各地へ赴き、地元造園業者や大手建設会社が設置したホタル水路、中には億という予算を使った水路、某ホタルで有名地域の先生と称される方の教えに従い作り上げられ、全くホタルが生息出来ない水路も目にしてきた。そういうどんな水路をもホタルの生息地に変えられる。それが阿部氏の高い見識と経験に基づく技術である。

 

 今は足を煩われ、しばらく同館から離れられている元顧問の農学博士 山岡誠氏(前区長が承認)はよくおっしゃっていた。「全国でホタルの飼育や研究をされている方は多いが、ここまで、水質や土壌まで開発し、作り上げている例はほとんど無い。素晴らしい技術だ」と手放しで賞賛されている。山岡氏は西日本ではホタルで有名な方。元九州女子大学教授、全国ホタル研究会の元理事、北九州ホタルの会名誉会長歴任。北九州市にホタル水路をいくつも作られ、ホタル係という部署までつくられた方だ。山岡氏も当時、同館でボランティアとして訪れた人々にホタルについてご説明されていた。

 

 その初期の研究の足跡は論文「水圏環境の自然回帰へ向けたホタル生態系の設計と構築」で発表された。 http://ci.nii.ac.jp/naid/10018719524 日本生物地理学会会報第61巻2006年12月20日 P91-P98

 

  特許に関わるホタル水路の用土を開発された会社社長にお会いした際もこんな話を伺った「阿部先生に土をお持ちした際、一目で良い土だと見分けられ、驚いた。そんな人はほとんど居ない」とおっしゃって、信頼され、さらに研究を重ねて、ホタル生息に不可欠な用土を開発された。

 

 用土に関する論文「多機能バイオ用土を用いたホタル飼育と環境の改善」は2003年11月にテクノロジーに関するアジア国際シンポジウムほかで発表されている。

 

 また、阿部氏は受粉昆虫在来種マルハナバチ類の繁殖飼育にも国内で唯一成功している。同館ボランティアとして、共同研究をしていたスタッフ、発明者でもある学術博士 綾部斗清氏と共に築き上げて来た。さらに、ホタルの生息地との関係にも気付かれ、ホタル水路と在来種マルハナバチ類の相互作用も研究されている。 

 

 さて、ここからこの記事の内容を検証してゆく。

—「区資源環境部の井上正三環境課長は『現在の受託者が受託業務を履行できないことが明らかであるため。詳細は明らかに出来ない』としている。年度内に事業者を途中交代させるのは異例。—
—これまでホタル生態環境館の業務は、個人が運営するグループの「むし企画」が受託していた。—

 

 しかし、この「むし企画」はホタル飼育に不可欠なカワニナやホタルのせせらぎに共生する魚やエビ類を専門に扱い、また、阿部氏の右腕として、長年、全国のホタル再生を実際に行って来た優秀なスタッフも抱えている。

 

—同課は『ボランティアについても、お引き取りをお願いしていた』としている。—

 

 記事にはこうあるが、ボランティアには、かつては山岡氏、現在はホタルにも長く携わり、熟知している綾部氏のような非常に優秀なスタッフなどが含まれていたことは確かである。あまりに来館者が多く、職員だけでは手が足りないところをサポートされていた。

 

 さらに以下のような調査を行った。
—区は1月27日、ホタルの生息数などを調べるため、国土交通省のマニュアルに基づき、同館の調査を実施。ホタルを飼育している『せせらぎ』で泥•石などを採取し、成虫(幼虫の間違い)やカワニナの数を調べたという。—
—これに対し、同館の関係者は「せせらぎ内の動物などは越冬中のものがほとんど。今は静かに過ごす時期で、生態に大きく影響する」と批判。—
—区などによると、新たに業務委託を受けるのは「自然・環境教育で実績を持つ民間企業。—

 

 区が行ったとあるが、実際には民間企業が行った。ホタルにとっては、静かに見守らなければならないこの時期に行ったということは、この業者自体がホタルの生態に不案内であり、また、国土交通省にホタルの生態数に適用出来るようなマニュアルは存在しない。
 この業者は昨年、同館阿部氏の元へ「ホタルのことを知らないので教えて欲しい」と教えを請いに行ったという話はもれ伝わっている。100歩譲って、その後、学び 始めたとしても、阿部氏のレベルには到底及ばない。ホタルの飼育に携わる当社のスタッフもまた、「ホタルについて阿部先生より詳しい人などどこにもいない」と全幅の信頼を寄せている。

 

 ホタル夜間特別公開時、何千匹も光るこの同館のせせらぎには何万匹もの幼虫が生息する。これは、ホタル産卵後の孵化幼虫で毎年数を確認されている。
 これを持ってしても、何の為の調査なのか、自ら区の財産を否定し、せせらぎを荒らす行為は全く理解出来ないと思うのが、ホタルを知る人のほとんどでは無いだろうか。

 

 通常、どの業界であっても専門分野について、どの委託業者が相応しいかという判断は、管轄部署の専門知識の無い契約担当者には難しい。まず専門家、この場合は阿部氏に指示を仰ぎ、判断を委ねるのが常である。政府であれば、有識者会議というのが、これに当たる。企業であっても、通常トップの人間が専門家に意見を求め、指示を仰ぐことになる。しかし、この記事を見る限り、全く逆になっている。全くの素人がどこを見て、いったい何をどう判断出来るのだろうか。

 

 当社も他県行政のホタル水路について、年間委託を受けているが、現在の行政側の担当者はホタルの生態についてはあまり分らないため、年間委託契約をした後は全面的に任される。契約スタート時は、この行政の責任者が自らホタルの幼虫を飼育されている方でした。しかし、「5世代ぐらいまでは何とか継続出来てもその後は不可能ということで、全面的な信頼を寄せる阿部氏の門を叩いたのが始まりになる。 

 

 同館のホタルが現在、25世代目の幼虫期であるというのは、驚異的な実績である。ここのホタルの夜間特別公開をご覧になると、ここのホタルの光はゆったりと舞い、光自体も強いと、訪れた方の多くが口にする。
 

 板橋区はホタルに関するもう一つの特許を平成20年7月4日に取得している「ホタルの発光パターン再現システム及びその再現方法」特許第4150207号

 

 これは茨城大学と板橋区の共同研究による特許。当社の元代表 茨城大学 教授 稲垣照美(当時助教授)及び元取締役 故安久正紘(茨城大学及び福島工業高等専門学校名誉教授)と阿部氏の共同研究による。これは同せせらぎのホタルの映像を解析して、再現をする光の開発になるが、その過程で、同せせらぎのホタルの光に1/fゆらぎがあることは実証されている。それこそが、ホタルが自生している証である。

 

 この論文「ホタルの光と人の感性について−感性情報計測と福祉応用−」によって、阿部氏は2004年日本感性工学会論文賞を受賞されている。論文が掲載、発表出来るということは、すなわち内容が正しく認められたということにほかならない。

 

 この1/f ゆらぎについて、2007年8月、TV朝日の「宇宙船地球号」という番組で興味深い実験が為されている。ナレーションを故緒形拳さんが担当された、関連部分を抜粋紹介する。

 

ホタルの光に異変!?知られざる“威嚇の光”

 

ナレーション……

「阿部さんは『生まれた場所でしかホタルはうまく生きられない』と言う」

阿部(敬称略)……

「ルールを守らないと定着をしない、ということですよ。いくら成虫を放しても無理です」

ナレーション……

「ほんとうのホタルの光は自生する場所でしか、見ることが出来ないのだと言う。山里    (能 登)の人知れぬ闇の中に、その本物があった」

阿部……   

「落ち着いて光っていますよね。ゆったりと同じリズムでゆっくり明滅を繰り返す。飛んでるホタルはほとんどがオスで、メスに求愛行動を取っているのですが、メスは気に入った雄が出るまで下で待つわけですよ」

 

—優雅に舞うホタルの光が映し出される—

 

ナレーション……

「ホタルの光はメスへの求愛のしるしなのだ。まるで、呼吸を重ねるように、シンクロしながら、明滅している。その光はつがいになり、子孫を残す重要な役目を果たしている」

ナレーション……

「阿部さんが妙な光を見せてくれた」

 

—ホタルを手のひらに乗せ—

 

阿部……   

「消えないですよね。ずっと点きっぱなしか、さもなければ、強弱の明滅をただただ繰り返す。これを威嚇光という」

ナレーション……

「激しく点滅したり、消えない光、こんなホタルが全国で見られる、というのだ。
阿部さんはある実験を見せてくれた。あの板橋の施設(せせらぎ)から1km程離れた公園に茅を張り、18年間世代交代をくり返して来たホタルを移動させて見る。これまで調べたところでは、生まれた場所からわずか400m移動しただけでも、放たれたホタルは異変を来すというのだ。ホタルはまるで、のみのように飛び始めた」

阿部……   

「普通の求愛光では無いですよね。威嚇光だと思います。明らかにここは自分の住んでいるところでは無いと判断していると思うのです。放たれたホタルを見て、決して癒されるとは思わない。ホタルがなんらかの警告を発している。自分たちはここには住めないんだ。住んでいけないのだ、と仲間に伝えている。俺たちは終わりだから、早く命を絶とうという警告の灯りだと思うのです」

ナレーション……

秘密が隠されていた。光の信号解析を専門にする(准教授 土井慈貴さん)に何ヶ所かで撮影したホタルの光を解析してもらった」

 

 結果は能登の光は比較的きれいな“1/f ゆらぎ”になっていることがわかった。“1/f ゆらぎ”とはたとえば、ろうそくの炎に見られる規則性の中に不規則性を含んだゆらぎ、これを見ると人は心地よさややすらぎ、懐かしさなどの感覚を覚えることで知られている。
 一方、“威嚇の光”の分析では、いわゆる“f2乗分の1ゆらぎに近く、電飾などの光に見られ、人は退屈、単調、眠気などを覚えることが分っている。つまり、捕まえられ、威嚇の光を放つホタルを見ても、人はほんとうのやすらぎを得られない、という映像が放送された。買ってきたホタルの寿命が短いということも、然も有りなんと思われる。

 

 この情報から見ても、“1/f ゆらぎ”があると証明されている同館のせせらぎで育ったホタルはここに自生しているということになる。これは板橋区自ら取得した特許 「ホタルの発光パターン再現システム及びその再現方法」によっても証明されているといえるのではないだろうか。区の財産でもあり、保有する特許の技術自体を否定する行為をすれば、今まで長年に渡り、TV・ラジオ・新聞雑誌様々なメディアで紹介されて来たすべてを区自らが欺いていたことにはならないだろうか。

 

 記事はこのように締めくくられている。  

—同館を巡っては、施設の老朽化とホタル飼育の技術の継承の難しさから区は15年度までに事業を廃止する方針を固め、区議会から技術継承を促す声が出ている。—

 

 最後に、昨年発売された本『とにもかくにも板橋区が好きだ!板橋本』 (えい出版社)刊に触れる。今、近隣のほとんどの書店の店頭に並んでいるこの本の 82.83ページに同館及び館長が紹介され、タイトルにはこう書かれている。

 

かつての美しい自然がここにある ホタル博士が愛を込めて育てた板橋のホタルに会いに行こう! 

 

 このタイトルそのものの様に阿部氏が愛し、育んで来た素晴らしいせせらぎは今後も阿部氏の管理下に置かれ、より良い形で存続されることを心より願う。鋭意検討を望む。

写真 阿部宣男氏撮影 

  • ゆらぎによる癒し

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